歯の神経をなるべく残す治療法

虫歯治療において、治療された歯が将来的に長持ちするかどうかには、歯の神経が健康な状態で存在しているかどうかが大きく関わってきます。
当院では、なるべく歯の神経を残す治療を心がけていますが、そもそも歯の神経はどんな役割を担っているのでしょうか。どうして歯の神経を残すことが、将来的な歯の予後に影響するのでしょうか。

今回はそんな歯の神経を残すための治療について解説していきたいと思います。

歯の神経とは 

1.歯の神経は痛みしか感じない

みなさんの体の中のあらゆる細胞組織には神経が張り巡らされており、歯の中にも神経が分布しています。歯に分布する神経は末梢神経系の感覚神経に分類され、顎の骨の中から歯の内部に伸びています。残念なことに、歯の神経は痛みしか感じることができません。ですので、みなさんが歯の疾患でお悩みになる場合は、ほとんどが痛みが原因だと思います。

2.歯の神経は脈管や神経の複合体

私たち歯科医師の多くは、患者さんが分かりやすいように「歯の神経」という名称を使っていますが、正式には「歯髄(しずい)」と言います。歯髄は神経線維だけでなく、血管やリンパ管などの脈管、その他に歯を構成する硬組織である象牙質を産生する細胞などが集まった、多くの組織の複合体です。

3.歯髄の役割(機能)

・象牙質の添加形成 → 歯を内側から強くします
・免疫作用 → 白血球成分が感染から歯を守ります
・歯の感覚の受容 → 歯の異常を痛みとして認識する
・歯髄の細胞への栄養供給 → 血管から栄養が供給されます

歯の神経を抜いてしまうと

虫歯が歯の奥深くまで進行し、歯の神経すなわち歯髄まで到達してしまうと歯髄に細菌感染が起こります。感染の程度が重度であれば、歯髄の炎症を鎮めるためには歯髄を除去するしか治療法がなくなります(図1)。また、虫歯が歯髄に到達していなくても、歯髄の近くまで歯を削ると刺激が伝わりやすくなり、痛みを除去するためには歯髄を除去するしか方法がないこともあります(図2)。

図1
図2

この、歯髄を除去する治療のことを正式には「抜髄(ばつずい)」と呼びますが、私たちは患者さんにわかりやすいように「歯の神経を抜く(取る)」と表現しています。

神経を抜いてしまうと、先に述べたような歯髄の役割が失われます。
すると、

①歯の成長が止まる → 永久歯が未完成な若年者ほど影響が大きい
②歯が変色する→黒ずんでくる
③歯が脆くなる → 歯が割れたり、根っこが折れたりする

といった不具合を生じるようになります。特に③の場合は、抜歯に至ってしまうことが多いため、安易に歯の神経を抜く治療を行うことは望ましくありません。

健康な歯をなるべく削らないための工夫

ですから、歯の神経を抜く治療は、歯髄に感染が及んでいるようなやむを得ない場合(図1)に限って行う最終手段ということになります。では、虫歯治療でなるべく歯の神経を残すためにはどうしたら良いのでしょうか。それは歯の削り過ぎを防ぐことにあります。

1.事前にレントゲン写真を撮影する

まずは虫歯の範囲を正確に把握することが重要です。レントゲン写真で歯の内部の虫歯の進行具合を把握し、おおよそどのあたりまで削れば虫歯が取り切れるのか、あるいはどこまで削っても歯髄を傷つけないで治療を行えるのかの見当をつけます。

2.う蝕検知液を使う

図3:う蝕検知液
NISHIKA 日本歯科薬品様から引用

一般的に、虫歯になった歯は非常にもろく柔らかくなっています。また、見た目も正常な歯と比べると黒かったり変色しています。しかし、虫歯の最深部は健全な歯との境界がわかりにくいことがあります。そうしたときに役に立つのがう蝕検知液(図3)です。これを歯に塗ると、虫歯菌が存在する部分が赤く染まります。この赤く染まった部分だけを削ることで健康な歯を削ることを最小限に抑えます。

3.拡大鏡(ルーペ)を使う

治療する部位が大きく明るく拡大されるので、虫歯の範囲を正確に把握するのに役立ちます。これを使うことで、健全な歯を削ることを最小限に抑えます。

4.手用切削器具を活用する

歯を削る器具というと、みなさんはあのウィーンと甲高い大きな音のする機械を想像するかもしれませんが、実はそれだけではありません。エキスカと呼ばれる非常に小さなスプーンのような器具を使って、手作業で虫歯の部分をこそげ落とすこともあります。機械を使うと簡単に歯を削ることができますが、削っている歯の微妙な硬さの感覚がわかりにくいことがあります。それに対して、エキスカは削っている歯の硬さの感覚がダイレクトに手指に伝わります。健康な歯は非常に硬いですが、虫歯は柔らかいので、この感覚の違いを利用して歯の削りすぎを予防します。

当院では、以上のような工夫を行うことで、健康な歯をなるべく残し、神経を抜く治療に至らないようにしています。

歯の神経を保護する処置

しかし、それでもきわどい状況はあります。可能な限り健康な歯を残したが、削った部分が歯髄に近接してしまったような時です。その場合は、歯髄の炎症を抑えるお薬で歯髄を保護します。

この治療を正式には「覆髄(ふくずい)」と呼び、当院では患者さんには分かりやすいように「神経に近いので、歯の神経を保護するお薬を塗ります」などとお伝えしています。お薬には水酸化カルシウム製剤を用いることが一般的です。
覆髄後は、一度神経に痛みが出ないかを時間をおいて確認し、次回以降の来院時に症状がないことを確認して、詰め物や被せものの治療を行います。

また、若年者の場合はあえて虫歯の部分を一層残し、その上から歯の再生を促すお薬を塗って数ヶ月おいた後、健全な歯ができたことを確認して、詰め物や被せものの治療を行うといった方法もあります。これについてはまた別のコラムで詳しくお伝えしたいと思います。

以上が「歯の神経をなるべく残す治療法」になりますが、実はこの治療は手間がかかります。そのため、単純に歯の神経を抜いてしまう治療法に比べて治療に時間を要することもあります。しかし、当院では、手間と時間をかけてでも歯の神経を残すことの意義は大きいと認識していますので、患者さんのご理解をいただける場合は、なるべく歯の神経を残す治療を行っております。

虫歯治療で歯の神経を残す治療法について興味がある場合は、ぜひ明石台歯科医院にお越しください。

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