お口の機能低下症とは

仙台市泉区の歯医者 明石台歯科医院 口腔機能低下症

少し前のコラム「咀嚼機能の検査とは」の冒頭で、本年7月開催の第131回日本補綴歯科学会学術大会で、お口の機能検査に関する講演があったことをお伝えしました。高齢化が進む日本でこれから必要になってくる歯科治療は、これまでのように単純に「虫歯を削って詰めた、被せた」、「歯を抜いてブリッジ、入れ歯、インプラントを入れた」で終わりではないですよ、ということです。つまり、加齢などと共に低下するお口の機能に関して、きちんと検査し、機能の低下があればそれに対応しておくことで、お口の機能を維持し、それがフレイル予防となり、最終的には全身の健康につながります。

そこで、今回は「お口の機能検査」を行うことで診断できる『口腔機能低下症』についてお伝えしたいと思います。

口腔機能低下症とは

『口腔機能低下症』とは、加齢や病気などさまざまな要因でお口の機能が低下した際に現れる多様な症状のことを言います。具体的には以下の通りです。

  • お口の衛生状態が不良
  • お口が乾燥する
  • 咬む力の低下
  • 舌や唇の運動機能の低下 
  • 舌を上あごに押し付ける力の低下
  • 咀嚼機能の低下
  • 嚥下機能の低下

 これらの症状は、主に中高年にみられるものです。こういった状態を適切に診断、治療し、管理していくことで、いつまでも健康なお口の状態を保ち、健康長寿につなげていこうというのが新しく日本の歯科医療が掲げるコンセプトです。『口腔機能低下症』は2018年から65歳以上の方が対象で保険適応となり、診断に必要な検査や治療を行うことができるようになりました(ただし、脳卒中やパーキンソン病などの特殊な全身疾患がある場合は年齢制限はありません)。さらに今年の春からは年齢制限が50歳に引き下げられました。それだけ早いうちから対策を取る必要があることになります。近年「オーラルフレイル」といった言葉も使われています。それだけお口の機能の低下を抑制することがますます重要になってくるということです。

どんな人が口腔機能低下症なのか

みなさんは以前に比べて次のようなことはありますか?

  • 口の中が汚れている
  • 口の中が乾くようになった
  • 硬いものが食べにくくなった
  • 滑舌が悪くなった
  • 食事の時間が長くなった
  • 食べ物が口に残るようになった
  • 食べこぼしをするようになった
  • 薬を飲み込みにくくなった
  • 食事のときにむせるようになった

これらに当てはまる場合は『口腔機能低下症』の疑いがあります。

どんな検査を行うのか

先に挙げた事項を詳しく調べるために、以下の7つの検査を行います。7つといってもどれも単純な検査でそれほど時間はかからないので、難しく考える必要はありません。

  1. 口腔衛生状態:舌に付いた汚れ(舌苔:ぜったい)の程度を評価します。
  2. 口腔乾燥:口の粘膜の湿り具合、あるいは唾液量のいずれかを測定します。
  3. 咬合力:特殊なフィルムで咬む力を測定する、あるいは残っている歯の数を数えます。
  4. 舌口唇運動機能:1秒あたりのパ・タ・カの発音回数を測定します。
  5. 舌圧:特殊な機械で舌を上あごに押し付ける力を測定します。
  6. 咀嚼機能:検査用のグミを噛んで咀嚼能力や咀嚼能率を測定します。
  7. 嚥下機能:質問紙または質問票により評価します。

口腔機能低下症の診断および治療 

診断

以上7つの検査を実施し、うち3項目以上で基準値を下回った場合に『口腔機能低下症』と診断します。そのうち、咬合力、舌圧、咀嚼機能のどれか1つでも低下が認められる場合は、管理計画書を作成し、継続的な治療を実施していきます。患者さんの状態に応じて主に月1回程度来院していただき、指導と状態の評価を行います。概ね半年ごとに再評価の精密検査を行って継続管理の必要性を判断します。

治療

1.全身状態および生活習慣

基本的には栄養バランスの良い食事、適度な運動、しっかり休養をとる、などの生活習慣指導が中心になります。また、歯科だけでなく医科のかかりつけ医(できればかかりつけ薬局も)を持ちましょう。口腔乾燥など服用薬剤により口腔機能が低下する場合があるので、そういったことがないか確認することも必要です。

2.お口の状態

①口腔衛生状態不良

歯磨き指導、舌の清掃指導、入れ歯の清掃指導など

②口腔乾燥

水分摂取指導、唾液腺マッサージ、お口の保湿剤の使用方法など

③咬合力低下

虫歯、歯周病、入れ歯治療、食事指導など

④舌口唇運動機能低下

発音指導、舌や口唇の運動範囲の拡大を目的とした可動域訓練のほか様々な訓練の指導

⑤低舌圧

舌圧を向上させるための抵抗訓練など

⑥咀嚼機能低下

咀嚼訓練の指導、開口訓練など

⑦嚥下機能低下

嚥下体操の指導、開口訓練など(ただし、嚥下機能低下がみられる場合は、嚥下障害が含まれる可能性があるため、管理開始前に嚥下障害のスクリーニング検査を行います。)

小児の口腔機能発達不全症との違い

『口腔機能低下症』と似たような病態に、小児の『口腔機能発達不全症』があります。これは、15歳未満の小児で、障害がないにも関わらず、食べる、話すなどの口の機能が十分に発達していない状態をいいます。こちらも検査によって診断を行い、定期的な管理(治療)を行う必要がありますが、小児期に正常なお口の機能が獲得できないまま成人期を過ごし、そのまま高齢者となると、機能の低下に拍車がかかるとされているので注意が必要です。もっと詳しく知りたい方は、当院のコラム「小児の口腔機能発達不全症とは?」をご覧ください。

まとめ

『口腔機能低下症』についていかがだったでしょうか。そもそもそれ自体を知らない方のほうが多いのではないでしょうか。今後はかかりつけ歯医者で歯の治療をするだけではなく、お口の機能を管理するのが当たり前になるでしょう。

当院ではまだ「口腔機能低下症」の診査・診断および治療を実施してはいませんが、近いうちに検査機器等を導入し、「有床義歯咀嚼機能検査」(コラム:「咀嚼機能の検査とは」参照)と一緒に検査体制を充実させ、患者さんのお口の健康増進に努めてまいりたいと思っております。

日本老年歯科医学会の下記リンクに患者さん向けの大変参考になる情報が載っています。興味のある方は、ぜひご確認ください。

◯ 一般社団法人 日本老年歯科医学会 「口腔機能低下症」を診断しましょう(https://www.gerodontology.jp/committee/001190.shtml

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